2018年08月03日

横田真人コラム〜うんちで切り開く未来

僕はいま香川県に向かう飛行機の中にいます。研究材料として糞便サンプル、つまりうんちを提供しにいきます。そうです。そのうんちです。30歳にもなって、うんちをネタにコラムをしたためる自分に一抹の不安を覚えつつも、その重要さを読者のみなさまにもぜひ知っていただきたいと思い、うんちというワードに魂を込めてコラムを書いております。


突然ですが、うんちはなにで構成されているでしょうか?食べ物のカスだと思っている方が多いと思いますが実はうんちの約20%が水分です。残りの固形物20% のうちそれぞれ1/3が、食べ物のカス、古くなった腸粘膜、腸内細菌と言われています。僕の中にいる特徴的な菌を培養するためのうんち提供が今回のうんちの旅の目的です。うんちに含まれる腸内細菌という言葉は聞いたことがあるでしょうか?人の体内にはおよそ500~1000種類、約100兆個の腸内細菌が存在し、その重さは1から1.5キロにもなると言われています。軽いメディシンボールくらいの重さの細菌が住んでいるこたになります。ものすごい量です。腸内細菌には1つの臓器に匹敵するほどの働きと影響力があり、私たちの心と体の健康を支えてくれています。ビフィズス菌や乳酸菌は馴染みがあると思います。これらを含む腸内細菌は、人々の体調維持、免疫力の向上や、うつ病など様々な病気との関係があることが分かってきています。

 

無菌のマウスに痩せている人の腸内細菌を投与すると痩せ型になり、逆に肥満の人の腸内細菌を投与すると肥満型になるという有名な実験もあります。同じことがアスリートでできないか?その発想から生まれたのがAuB(オーブ)株式会社です。元サッカー日本代表の鈴木啓太さんが社長を務められている会社で、ぼくも創業時から経営に携わらせてもらい、うんちも大量に提供してきました。当然のようにトップアスリートの体はユニークです。たくさんトレーニングをできる体とメンタルの強さ、回復をし体を強くする食事をするための内臓の強さ。いろんなものを兼ね備えています。一方で、体重管理やメンタルなどで課題を抱えるアスリートもたくさんいます。そんなアスリートの課題を腸内細菌から紐解くことができればアスリートのパフォーマンス向上の一助になるだけでなく、その知見をもとに一般の方の健康にも貢献できると考えています。


例えば、中長距離選手や女子アスリートでは、血液検査でヘモグロビンやフェリチンといった数値を見ると思います。ヘモグロビンは体を動かすのに必要な酸素を運搬し、フェリチンはヘモグロビンが少なくなった時にそれの代わりとして働く、どちらも鉄分から作られている運動するのに欠かせない物質です。一般的に、鉄剤を摂取することやお肉など鉄分を多く含むものをよく食べることを心がけることで数値をあげる方法が一般的です。ですが、鉄分を心がけてとっているのに全然数値があがらない人、逆に全然気にしてなくても数値が高い人などアスリートの中にも個人差があります。腸内細菌は鉄分などの代謝を助けているということも分かっています。自然界で鉄の多くは3価の鉄として存在していますがこれは、不水溶性なので小腸などで吸収できません。これを2価の鉄に還元し消化吸収する機能が人間にはもともと備わっているのですが、腸内細菌叢はそれらの働きを促進してくれます。鉄の吸収率の全てが腸内細菌叢で説明できるわけではありませんが、鉄分をたくさんとっているのになかなか血液検査のデータがあがらないという選手に対して、鉄の吸収を助けてくれる腸内細菌叢がわかり、その細菌叢の増やし方もわかれば、もっと効率的に食事をとることが可能になるでしょう。特に、鉄のように量をとりすぎると体に害がある物質は”効率的に摂取できる体にする”というのは大きなキーワードになるはずです。

 

次世代シーケンサーという遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置が2000年代初頭に登場したことにより、人のDNA、腸内細菌のDNAの解析が安価に高速にできるようになりました。それ機に腸内細菌の研究はすごい勢いで進んでいますが、まだまだわからないことだらけです。このコラムでは一般的な内容しか話せませんでしたが、腸内細菌から世界のトップスプリンターが多く保有している菌、バカみたいにメンタル強いアスリートが多く保有している菌。そんな菌が実際に彼らのパフォーマンスと関係していることがわかりそれを保有する方法、増やす方法がわかったとしたらめっちゃ夢がありませんか?

そういった世界が現実的でないという人も多くいます。誰もが瞬時に情報を交換できる時代を50年前の人たちは想像できたでしょうか。人間がマラソンで2時間を切りそうなところまできてると50年前の人は想像したでしょうか。ホントに少ない人だけが想像できる世界だからこそやってみる価値があるのかなと思います。そんな目標をビジネスでも共有できる仲間ができたのは、陸上競技をやってきたおかげです。腸内細菌のビジネスを通して、自分を育ててもらったスポーツ界に少しでも恩返しができるようにしていきたいと思います。腸内細菌とスポーツという新しい切り口からの発見も楽しみにしていただけたら嬉しいです。

 

月刊陸上競技7月より
http://rikujyokyogi.co.jp/archives/2674