体調管理の一つのとして重要な要素は「食事」ですが、近年の食生活の著しい変化によって摂取量が減少している項目に「食物繊維」があります。
近年の食生活の変化は大きく、かつては野菜、海藻、豆類などの食物繊維が豊富な食事でしたが、現在は食の欧米化や加工食品の普及により、脂質過多で食物繊維量は減少傾向にあります。
この変化は腸内環境にも影響を与えることが考えられます。食物繊維は腸内細菌のエサとなり、腸内環境を整えます。しかしながら、食物繊維の慢性的な不足は腸内環境のバランスを崩し、便秘や腸内の悪い菌を増殖させ、さまざまな不調を招く可能性があります。
食物繊維の摂取量を増やすことは腸内環境を整える上で重要にはなりますが、食物繊維の種類についてはあまり触れられていません。そこで、今回AuB株式会社では、腸内細菌検査サービス「BENTRE」のユーザー男女160名を対象に食物摂取頻度調査(FFQgを使用した栄養調査)を行い、食物繊維の量と種類の比較を行いました。
食物繊維とは
食物繊維とは、小腸で消化・吸収されずに大腸まで達する難消化性の糖質を指します。日本では、食物繊維を「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義しています。
これまでの研究で、食物繊維には腸内環境の改善、便秘予防、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下など、食物繊維のさまざまな健康効果が明らかになっています。
食物繊維には2種類ある
食物繊維は2種類に大別されます。
不溶性食物繊維:
水に溶けない性質を持つ食物繊維で、腸の蠕動運動を促進する作用があります。
穀類、野菜全般、豆類、キノコ類、果物、海藻、甲殻類など。
水溶性食物繊維:
水に溶ける性質を持つ食物繊維で、腸内細菌のエサとなるほか、腸内環境を整える作用があります。
里いも、わかめ、こんにゃく、オートミール、もち麦など。
日本人は食物繊維不足である
私たちは古来から和食に慣れ親しんできました。ところが、戦後から始まった食の欧米化によって、かつてはお米と野菜、魚中心の食生活からお肉や加工食品などが多めな食生活に変化しています。
そのため、1950年ごろには1日あたりの平均食物繊維摂取量が20gを超えていたにも関わらず、2020年に行われた国民健康・栄養調査によると、成人男性で約18g、成人女性で約15gになっています。*1
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、一日あたりの食物繊維摂取目標量*を18~64歳で男性21g以上、女性18g以上としています。*2
*:目標量…生活習慣病の発症予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量
つまり、食物繊維は現代の食生活だと不足しやすく、1日あたり3〜4g以上意識して補う必要があります。
食物繊維は「量」よりも「種類」にこだわることで腸内フローラを整える
一般的に、「食物繊維」と「運動」は腸内環境に良い影響を与える要因と考えられています。
「運動」に関してはこれまで、運動量・強度が極端に高いアスリートの方が一般人より腸内環境が健康的(多様性と酪酸菌の占有率が高い)であることなどを当社で解明し、学会等で発表してきました。
一方で、「食物繊維」はどのように摂取すれば腸内に良いか(量、種類、頻度など)具体的な点については明確ではありませんでした。
そこで本研究は、摂取する食物繊維の「量」と「種類数」に着目し、どちらが腸内環境に好影響を与えるか明らかにすることを目的とし、実施しました。
その結果、摂取する食物繊維の「量」より「種類数」の多さが、「①腸内の細菌の多様性指数(種類の豊富さ)」と「②酪酸菌(酪酸産生菌)の占有率」の双方に好影響をおよぼすことを明らかにしました。
本研究の詳細
腸内の細菌の多様性指数(種類の豊富さ)と②酪酸菌(酪酸産生菌)の占有率の数値は高いほど、腸内細菌の状態が良好であることを表すほか、ヒトの健康に有用であることが知られています。(日本スポーツ栄養学会 第8回大会にて発表)そこで、解析対象は腸内細菌の多様性指数(腸内細菌の種類の豊富さ)と酪酸菌(酪酸産生菌)の占有率の数値としました。
研究概要
■対象者:20~50歳の一般男女160人
■方法:被験者から収集した便に含まれる腸内細菌のDNAを解析。また被験者全員に「食習慣」に関するアンケート調査を実施。
◆食習慣のアンケート方法:日常的に食べる主食・主菜・副菜の種類や量、嗜好性飲料(ジュースやアルコール)、調味料の種類などを調査。それらの内容をもとに、摂取している食物繊維の「量」と「種類数」を算出した。
食物繊維の「量」もしくは「種類数」の多い被験者層を上位とし、少ない層を下位として2群に分類。各2群間で、腸内細菌の状態を測るための指標として代表的な「菌の多様性を示す指数(多様性指数)」と「酪酸菌の占有率」を比較した。
なお「種類数」は、食物繊維を多く含む芋、緑黄色野菜、キノコ、海藻、豆、果実類の6食品群のうち3食品群以上について、被験者全体の平均値以上を摂取しているかという点を境に上位と下位に分類。
■研究実施期間:2017年9月から2018年6月
研究結果
①食物繊維の「種類数」が多いと、腸内細菌の多様性指数と酪酸菌の割合の双方で有意差
食物繊維の「種類数」を多く摂取している上位89名群と少ない下位71名群では、「菌の多様性指数」および「酪酸菌の割合」のみ上位71名群に有意差が認められました。
②食物繊維の「量」が多いと、腸内細菌の多様性指数は有意差が認められず、酪酸菌の割合のみで有意差が認められた
食物繊維の種類を多く摂取している上位群の方が、少ない下位群より、「菌の多様性指数」と「酪酸菌の割合」の両方で有意差(有意水準5%=P値0.05以下、以下同じ)が認められました。
■本研究結果まとめ
食物繊維の「種類数」が多いと、腸内細菌の多様性指数と酪酸菌の割合の双方で有意差
食物繊維の種類を多く摂取している上位群の方が、少ない下位群より、「菌の多様性指数」と「酪酸菌の割合」の両方で有意差(有意水準5%=P値0.05以下、以下同じ)が認められました。
本研究を踏まえて、不足しがちな食物繊維を補うためのポイント
①鍋やスープを作ろう
料理の数を増やすのも良いですが、1つの料理にたくさんの具材を使うことで摂取する食材の品目数を簡単に増やすことができます。鍋やスープのように、野菜をたっぷり入れるだけで食物繊維摂取量をアップさせるだけでなく、咀嚼回数を増やすことで満腹中枢を刺激してくれます。
②乾燥野菜を活用しよう
新鮮な野菜は、旬になるほど栄養素と旨味がアップし、味覚に訴える美味しさがあります。ただ、鮮度が落ちてしまうと調理しづらい、美味しくないので捨ててしまうなどの問題も。そんな時は、乾燥野菜を活用しましょう。切り干し大根や乾しいたけをはじめ、最近ではスーパーで乾燥野菜を手軽に手に入れることができます。わかめ、きのこ類も
③もち麦や雑穀米、麦を活用しよう
いつも白米を食べているという人は、炊飯時にもち麦、雑穀米、麦などを混ぜて炊いてみましょう。または、白米から部付き米、玄米などに変えるのもおすすめです。
④カットフルーツを選ぼう
フルーツを普段食べるという人は減っていますが、フルーツには食物繊維だけでなくビタミン・ミネラルがたっぷり含まれています。フルーツをあまり食べないという人も、コンビニやスーパーで売られているカットフルーツを活用してみてください。
⑤栄養補助食品を活用しよう
仕事で忙しいなど食事や調理の時間があまり取れない人は、食物繊維が配合された栄養補助食品を活用しましょう。できればいろんな種類の食物繊維が配合されたものを使うことをおすすめします。
食物繊維は量より種類が重要|多様な食物繊維を摂ることで腸内フローラを良好に保つ
今回の研究結果により、食物繊維の量ではなく種類にこだわることが重要であることがわかりました。
腸内にはおよそ数百種類の菌が存在していると言われています。それぞれエサとする食物繊維の種類が異なるため、摂取する食物繊維の「種類数」が多いと、より多くの菌を活性化させることにつながると考えられます。
また腸内細菌は食物繊維をエサとして利用(発酵)する際に、短鎖脂肪酸(乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸)を産生します。これらは主に大腸が、ぜん動運動をする際のエネルギー源として利用されるほか、腸粘膜のバリア機能を高めるなど、腸の健康に欠かせない物質であることが近年の研究で明らかになっています。
腸が健康になると腸内に棲んでいる細菌たちにとっても活動しやすい環境となります。そのため、腸内細菌を“元気”にするために、毎日の食事の中で多くの種類の野菜や果物を摂取するなどして、より多種の食物繊維を摂取することが、腸内環境を整えるのに重要であると考えています。
もちろん、冒頭に申し上げたように、近年の食事の傾向は変化しており、1日あたりの食物繊維摂取量も減少傾向にあります。そこで、我々はこの知見を活かした商品開発やユーザーコミュニケーションを図り、腸内環境の重要性や食事・生活習慣から始めるコンディショニング普及活動に注力していきます。
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